『暴力シャンデリア』


毎日の様にうなされる夢より....おひとつどうぞ。

●▲----スワロフスキーの「暴力シャンデリア」-------■●

 私はヨーロッパのどこかの町に越して来たばかりだった。
がらんどうな部屋に、未開封のダンボールが転がったまま。
前の住人が残して行った古い家具が数点置いたままになっている。
それらが無ければ きっと倉庫に見えるだろう。
いや....ここは昔、本当に倉庫だったのかも知れない。

新居は、築100年は経っていそうなアパートの3階。
天井の高い真四角の部屋には、
縦長の窓が等間隔に3つ並んでいる。
それぞれ、濃緑色のぶ厚いカーテンが左右にきちんと束ねてある。
昼であっても部屋は薄暗く、まるで寺院の一室の様だ。

その夜、私は熟睡出来なかった。
疲れていた上、古い建物特有の匂いに馴染めなかったからだ。

翌早朝、玄関のチャイムが鳴った。 
眠い目をこすりつつ、覗き穴から覗こうとするが、
どうも目がかすれて良くみえない。
「こんな早く...大家さんかな?..まあ、いいや.....」
私は重たいドアを空けてしまった。

 -------これがマチガイだった-------

 問答無用だった。
「STAFF」と書いたカードを胸に下げた人たちが、
10人、20人、30人.......ズカズカと上がり込んで来た。
あっという間に、新居は人人人...声声声.....でごったがえした。
パジャマのままぼう然と立ちつくす私をよそに、
ロンドンのアンダーカルチャー的ヘアに
「ピンクのハート型電飾付きメガネ」をかけた体格の良い白人女性が
ドッカ!....と座って煙草を吸い始めた。私は、
ソファが片方だけ極端に深く沈んでいるのをボンヤリ眺めた。
彼女が煙を勢い良く吸い込むたび、
眼鏡の電飾がピンクとグリーン交互に....せわしなく点滅した。
彼女は相当イライラしている様だった。

回りを見れば....
打合わせを始める人達、
携帯電話で慌ただしく連絡を取りあう男性、
うちのワインを勝手に飲んでる人、
洗面所で歯を磨く人...
トイレを流す音.....

「ちょっとアンタら! 一体ダレやねん?!
......ってか...あの〜何してるんですかあ〜?」

....と礼儀正しく聞く間もなく、
部屋に巨大なハイビジョンモニターが運び込まれた。
「STAFF」皆汗だくだ。彼らは、
昨日繋いだばかりの私のオーディオ配線をひっこぬき、
ぶっといケーブルを手際良く部屋中に回し始めた。 

「はあ...???」
 
この際、面白そうだから見物することにした。 
モニターに「テスト映像」が飛び込んできた。
電飾眼鏡の女性は中継番組のディレクターだった。     

「TV中継...? 何?....シャンデリア?」 

聞けばこのアパートの最上階にホールがあり、
そこに貴重なシャンデリアがあるんだと言う。
今日は、10年に一度の「シャンデリア御開帳の日」なんだと言う。
そして、ついでに言えば、
大家の承諾で、うちが中継基地になったのだという。

「・・・って、何も聞いてないんですけど・・・」

早速らせん階段を駆け上がり
「最上階のホール」に行ってみる。 7階だった。
ホール天井はガラス製のドームになっていて、明るいが蒸し熱かった。
既に沢山の人々が見物に集まっている。
何故か荒俣猛氏が見物人の中に確認できた。

見物人は、黒タキシードに蝶ネクタイ、シルクハット姿。
皆クラシカルに正装している。なんだか時代錯誤しそうだ。
荒俣氏も服はキメていたが、
「水色の健康サンダル」を履いていた。

------ 正午。

楽隊の「アラビックファンファーレ」が轟いた!
変な旋律だ! 
お披露目の時間だ! 

「ガリガリガリガリ...ガガガ...」

なんじゃ?! このスンゴイ音は? 

驚いた。
ドーム天井は最新球場の如く左右に開くんである。
それも「手動」で開けちゃう。
左右50人程の人足に別れ、一斉に綱を引いている。

「ギギギ...ガリガリガリ...キイイイイ〜〜」

耳を塞ぎたくなるよなオンボロ摩擦音だ。
それよか、ガラスが落ちて来やしないか不安になって来た。
丁度その時、頭上に
薄曇りの空をバックに「巨大シャンデリア」が姿を現し始めた。

(はあああ・・・・・・???)

普段はアパート屋上に塔のごとく鎮座している
巨大シャンデリアが「降りてきた」のだ!
ドームを開けると「降りてくる」大掛かりなカラクリらしい。

ジャラン...ジャラン...なんか不安定でアヤウイ。
シャンデリアはとうとう全貌を現した。

(うあ〜、デッカイ! 高さが5mは有る!)

それは、総スワロフスキー製だった。
透明薄褐色。
細部まで手をかけまくって、コテコテの装飾。
一つ一つのパーツにすら、実に細かい仕事がしてある。
シャンデリア上部には2mもある「獅子の頭」のデコレーション。 
勿論これもスワロフスキー製だ。
全体像は、美しいというより.....むしろグロテスクだった。

(おや?) 

今度は「獅子の頭」がゆっくり揺れはじめた。
古くからの慣習で12回大きく「揺らす」んだそうだ。
獅子のタテガミに見立てた無数の長い装飾も派手に揺れる。
ジャララ〜ン...ジャララ〜ン...
       職人達が針金状の吊り具6本を操り、クラゲの様に揺り動かしている。

(一体何トンあるの? あんな細い吊り具で大丈夫かな?)

ジャララ〜〜〜ンコ...ジャララ〜〜ンコ〜
       
回数ごとに揺れは激しくなり、
10回を過ぎると、今にも壊れそうな音。

ガッシャリ〜〜〜ンコ....カガガッシャリン〜〜〜コ〜

「ウアア〜! 危ない!」 

ついに 2cm〜5cmくらいのパーツがいくつも外れて、
パラパラと雨の様に降ってきた。
逆光を浴びて美しい...けど危ない!
カッシャーン、パッキーン....透明な破壊音が響き渡る。
美しい物が壊れていく光景に、私はゾクゾクした。

(ふう...12回....お、おわったあ.....
実に凶暴なシャンデリヤだった...
こ...これは世界一暴力的なシャンデリアに違いない...)

まだ揺れが収まらない中、一人の男性が「走り出した」
続いて、他の紳士淑女もダーッとホール中心に向かって走った。
床に落下したシャンデリアのパーツを拾い集めているのだった。
男はシルクハットの中に、女はドレスの胸元に....
スワロフスキーの輝きを楽しげに収めている。皆笑っている。

拾ったパーツを大切そうに触りながら、一人の紳士が語った。
「このパーツには魔力が存在するのです」
彼はポケットから古い懐中時計を出して見せてくれた。
「これは、祖父が50年前に拾ったパーツを加工させて、
文字盤に埋め込んだ特注の時計でしてね...彼は...」

(そうかあ....
このシャンデリアは原形が無くなるまで、
これからも揺れ続けるのか...。)

連れ合いの淑女も語った。

「この指環は、結婚前の母がパーツから作ったものよ。
その後、彼女はね...フフフ...」

彼女の夢の様な話しを聞いている最中、
私はハッ!と我に返った。

あ...ヤバイ..私ったら...パジャマのままでした〜 

回りは全員正装。
正直言って、かなり恥ずかしかった。そこで、
私は腹を決め、逆にパジャマ姿をアピールする行動に出た。

突然走り出し、床に滑り込み、
大の字になってホールの真ん中に寝っ転がった。
パジャマは寝姿が一番!

「ヘッヘッ〜 なかなか気持ちイイじゃない!」 

私の異様な笑いはテレビ中継に丸写りだった。

その時、 
頭上のシャンデリアから大きなパーツが一つ落ちてきた。
私はそれを、忍者ばりに「3回転して」かわした。
「カッシャ〜〜ンンン.....」透明な残響をのこして、
ホールはシーンと静まり帰った。

次にパジャマの女は 急にピョン! と起き上がって、
パーツを拾い、近くにいた男の子に渡すと
今度は一斉に拍手が起こった。
蒸し暑いドーム内に音がブワンブワンと回った。

 みんな私を、テレビ局に雇われた
「東洋人の道化」と思ったみたい・・・ね。