「宮古島の4月」
 キリギリスの仲間
  ハイビスカスと一緒に揺れる
 
   


「海って青いんだなあ・・・」  宮古島。 
沖縄の更に先、もう台湾の近くです。

空港に降り立てば夏。 
のどかな風景が広がり、宮古牛がのんびりと草を食んでいる。
民家の軒先には色とりどりの花が咲き乱れ、
見慣れぬ蝶々がヒラリヒラリと舞い踊る。

---ここは何処?---

デイゴの花が青空に向かって深紅を競いあっている。
赤、青、黄、緑......まるで合成写真みたいな原色の世界に、
なかなか目が慣れて来ない。
強烈な日差しに目がクラクラしてくる。
思わずサングラスを取りだそうとしたが、
そのままの色を見たいので、やめた。 
つばの広い帽子を被る。

ハイビスカスの雌しべに黄緑色のキリギリスがしがみついている。
長い触覚に黄色い花粉をいっぱい付けて、
ゆっくりと交差させている。
風があまい。
ハイビスカスがゆっくり揺れる。キリギリスもゆっくり揺れる。

サトウキビ畑からは湿った緑の匂い。
スプリンクラーがクルクル回る。 あの下に行って、
自分も服をびしょびしょに濡らしたくなる。
タバコの花を初めて見た。
薄ピンク色の花が行儀よく延々と並んで可愛らしかった。
タバコの印象が少し変わった。

ガーガーガーガー・・・・人工音。
真っ黒に日焼けした麦わら帽のおじさんが、耕耘機を操る。
もっと南の石垣島では年に3回も米が取れるという。
耕耘機のすぐ後を、アマサギが20羽程付いて歩く。
風になびく亜麻色の飾り羽根が品よく美しい。そのぶん、
掘り起こされたご馳走に我先とありつこうとする姿が滑稽だ。

ピーヨ!ピーヨ!・・・・鋭い声はヒヨドリ。キジバトもやたら多い。
この島は彼らにとって楽園のはず。
どことなく、本土の種より羽根色が暗色で小柄だ。
亜種なのかな? 
彼らの伸びやかな姿を見ていると、
わざわざ東京で暮らす野鳥が、気の毒にも物好きにも思えた。
それは私も一緒かあ・・・

    


    
    
アマサギが
    耕耘機についてあるく。 
    おじさんは気にしないようだ










時間が妙にゆっくり流れていて、違和感を感じる。
私の体内時計は、なかなかその流れに「着いていけない」
自分の秒針にブレーキをかけるのに一時間はかかったかもしれない。
ブレーキかけていたら、少し疲れた。なさけない。
そして、やっとこさ時計の歩みを抑えたら、
この島の時間の流れが気持ち良くなってきた。

  すると・・・近くなった。
  ぐんと近くなった。

「北緯○度、東経○度、
宮古島の南東○○キロの海上に大型の台風○号が・・・」

あの懐かしいラジオ短波放送の声みたいに
はるか遠くに感じていた不思議の島が、
急にグンと近くなった。 

  「今、あの島にいるんだなあ・・・」

その瞬間にやはり「あの感じ」が来た。

  「また知ってしまうのか・・・」

少し寂しくなった。 

-------いつもそうなのだ。

私は初めての土地を旅をすると、
すごくワクワクする反面、何故だかちょっと寂しくなる。
きっと、子供の頃から空想していた「絵巻」が、現実を前に、
ひとまずそこで終わっちゃうからなんでしょうけど、真相は謎です。
空想絵巻よさようなら〜。

真相はどうあれ、本物に接した後は、
いつも一から新しい絵巻が始まる感じがするのです。
脳内書き直し。編集し直し。消去に追加。挿し絵の変更。

ですから、旅先では自然と好奇心がどん欲になります。
多分、空想以上のイメージを構築したいという衝動にかられるからでしょう。
全身のアンテナが全開になり、
色んな角度からその土地を感じようとします。
いわゆる観光地ではなく・・・。
空想以下の希薄なイメージを持って帰るのが耐えられない私。
貧乏性とも言えるなあ。

翌日、12人乗りの船に乗った。
外海は思ったより荒れた。
うねりを全身でとらえ、南の海を感じ取る。
なんて気持ちいいんだろう。
カツオドリが上空を悠々と横切って行く。

年に一度の大潮の海に日が射し始めた。
目の前が突然青くなった。どんどん青くなった。
浅瀬に乗り上げ、うち捨てられた難破船を横目に見る。
きっと色とりどりの魚が群れているんだろう。
さらにもっとサンゴ礁の浅瀬近づくと「OUT OF 空想」だった・・・
見たこともない海の色。グラデーション。
海面に虹があった。

  ----ここは何処?----

 さて、羽田上空から見る東京湾は海の色じゃなかった。
 花や蝶もどこへやら?。

  ----ここは何処?----

高度を下げる機内で
宮古の人達の屈託の無い笑顔と、
カラオケ店の、夜毎の爆音を思い出し、
私は「空想以上」にほくそ笑んだ。


         海の色